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名古屋地方裁判所 昭和57年(ワ)3663号 判決

原告

大倉商事株式会社

右代表者

竹中他慶太郎

右訴訟代理人

佐治良三

太田耕治

建守徹

渡辺一平

右訴訟復代理人

尾関孝英

被告

有限会社三晃商事

右代表者

小島正敏

被告

小島正敏

右両名訴訟代理人

松永辰男

理由

一、二〈省略〉

三次に、請求原因3(一)(不法行為責任)の主張について検討する。

1  被告らによる不法行為責任の成否を考えるにあたつて、まず、原、被告会社間における取引の形態について検討する。

(一)〈証拠〉によると、次の事実が認められ、この認定に反する部分の被告兼被告会社代表者本人尋問の結果は措信し難い。

(1) 原告会社が被告会社と取引をなすに至つた経緯

原告会社名古屋支店は、昭和四七年ころから同支店に取引口座を有する山路商店と石油製品の取引を行なつていた。同支店は、右取引開始当初、山路商店から石油製品を仕入れることが多かつたが、石油ショックの時期以降、逆に同支店が山路商店へ石油製品を販売するようになつていたが、この取引を担当していた倉知は、その後、同支店の売り上げを増加させると共に、山路商店へ資金援助をしようと考え、山路商店に対する取引額を増加させるため、売上限度額を越え、兼松江商、太平石油等同支店に取引口座を有する他の会社の取引口座を無断流用して、山路商店へ石油製品を販売するようになつた。その際倉知は、売上伝票、請求書類を流用にかかる会社を名宛人として作成するものの、その請求は山路商店に対してなし、山路商店からの代金の支払いは、流用にかかる会社名で原告会社名古屋支店の銀行口座に振込送金させていた。

他方、被告会社は、山路商店から石油製品を仕入れていたが、同商店からの申し入れもあり、昭和五三年ころからは山路商店名で直接原告会社名古屋支店と石油製品の取引をなし、山路商店へはその事後報告をなすことで済ませていた。そのような中で昭和五五年八月、山路商店の取引先に二件の大口の倒産があり、山路商店はその経営にゆきづまり、そのため、原告会社名古屋支店は山路商店に対し約二億円の不良債権を有することとなつた。

(2) その後の被告会社との取引の形態

倉知は、山路商店との不正規な右形態の取引によつて原告会社に生じた損害を解消させるため、早急に石油製品の販売先を確保し、その収益を以つて右損害の填補を図る必要があつた。他方、被告小島は従前から石油製品を仕入れていた山路商店が事実上倒産したことから石油製品の仕入先を確保する必要があつた。そこで倉知は、被告小島の申出を受けて、被告会社へ石油製品を直接販売することとした。しかし、被告会社は原告会社に対し取引口座を有していなかつたので、倉知は、右取引にあたり、兼松江商等の原告会社に取引口座を有する他の会社名と取引口座を無断利用することとし、同年九月分以降は、かかる形態により原、被告会社間の取引をなすようになつた。

(3) 原、被告会社間の昭和五五年一二月分の石油製品の取引形態

被告小島は、同年一〇月下旬ころ、倉知に対し、被告会社へ支払いを求める代金請求書等が兼松江商等の他社名義宛のものであれば被告会社の税務処理上困難な事態も発生するので、原告会社から仕入れる石油製品を名義上豊臣石油販売から仕入れるようにしたいと提案した。これに対し倉知は、同年一〇月ころ、原告会社名古屋支店の山路商店に対する不良債権の回収のため豊臣石油販売の代表者牧邦夫を被告小島から紹介してもらつており面識もあつたので、被告小島の右提案を何ら疑うことなく了承した。しかし倉知は、豊臣石油販売と被告会社間の債権債務関係等について被告小島に説明を求めてもいないし、自ら調査したわけでもなかつた。

このようにして、原、被告会社間の取引は、同年一一月以降、豊臣石油販売の承諾も受け、書類上は豊臣石油販売を介在させるようになつたが、この場合の被告会社による石油製品の注文や、受渡方法の指示は、従前と同様、被告会社から直接原告会社名古屋支店の倉知になされていた。石油製品の単価の決定も被告小島と倉知との間でなされ、牧の関与するところではなかつた。原、被告会社間で取引をなす石油製品の種類、数量、単価が決まると、倉知において牧に連絡し、豊臣石油販売名義の代金請求書を作成させて被告会社へ売掛金の請求をさせ、牧が被告小島から手形又は小切手を受けとり、これと引き換えに豊臣石油販売作成の領収書を被告会社に交付し、牧において右手形又は小切手を換金して原告会社名古屋支店の銀行口座に振込送金した。その際、豊臣石油販売は何らのリベートも受け取ることにはなつていなかつた。

このようにして原告会社は、倉知の担当により、昭和五五年一二月一日から同月三一日までの間、被告会社から別表記載の石油製品の注文を受け、これを同社に引き渡した。その際、被告小島と倉知との間で、右各石油製品の代金額も別表のとおり合意されていた。

(二)  右認定事実によると、代金請求書や領収書を豊臣石油販売名義で作成させたのは被告会社の税務対策上の処置であること、石油製品の注文、受渡方法の指示、単価の決定は従前と同様被告会社と倉知との間でなされ、豊臣石油販売は実質上これに一切関与していないこと、同社は何らのリベートも取得していないこと、そして何よりも成立に争いのない甲第七号証、乙第三号証の三によると、豊臣石油販売は別表記載の一二月分の石油製品を被告会社に販売したものではないことを自認していることからすると、別表記載の一二月分の石油製品は原告会社名古屋支店から直接被告会社に対し売り渡されたものと認めるのが相当である。

2  豊臣石油販売を形式上介在させるにあたつての被告らの意図

(一)  〈証拠〉によると、次の事実が認められ、この認定に反する被告兼被告代表者本人尋問の結果は措信し難い。

(1) 倉知は、昭和五六年一月一〇日ころ、前示の方法により被告会社に前年度一二月分の石油製品の代金を請求したところ、被告小島は、右請求にかかる売掛代金債権については被告会社の豊臣石油販売に対して有する売掛債権と対等額で相殺するとして、右代金の支払いを拒絶した。倉知は、それまで、前示の方法により被告会社から代金の支払いを受け得るものと信じていたため、豊臣石油販売を実質的介在取引者と主張する被告らの態度は、全く予想するところではなかつた。

(2) 右の被告会社の豊臣石油販売に対する売掛債権とは、昭和五三年ころに発生した不良債権のことであつて、これについては、被告会社において、税務署に申告し、昭和五五年八月、右債権の一部について貸倒れの認定を受け、被告会社の損金又は必要経費として税法上処理されている。被告小島は、倉知に対しこのことを隠したまま、豊臣石油販売を、原、被告会社間の取引に介在させることを提案したものであつた。

(3) 被告会社は昭和五六年一月一二日限り原告会社からの石油製品の取引を停止したが、被告小島はそのときまでの石油製品の未払い代金額を一億六〇一〇万四〇〇〇円と認識しており、被告会社の認識している豊臣石油販売に対する未回収の不良債権額一億五〇三四万八九九七円とほぼ対等額となつている。しかも、被告会社が取引を停止したことにつき、他に特別な合理的理由もない。

(二)  右認定事実によると、他に特段の事情は認められないのであるから、被告小島は、昭和五五年一〇月下旬ころ豊臣石油販売を、原、被告会社間の取引に形式上介在させるよう提案した際、原告会社から代金の請求がなされた時、いずれかの時期に、被告会社の豊臣石油販売に対する不良債権で相殺したと称して、原告会社に対する代金の支払いを拒絶しようとの意図を有していたものと推認せざるを得ない。

3  被告らの不法行為責任

(一)  被告小島の責任

被告小島は、右の意図を有しながらも原告会社名古屋支店の倉知に対し、別表記載の石油製品を注文し、倉知をして代金の支払いが受けられるものと誤信させ、同支店から同表記載の石油製品の引き渡しを受けたものといえるから、被告小島には右石油製品を詐取した違法があるといわざるを得ず、民法七〇九条による不法行為責任がある。

(二)  被告会社の責任

被告小島は、被告会社の代表者として被告会社の職務を執行するにつき右の不法行為をなしたものといえるから、民法四四条により、不法行為責任を負う。

4  損害

原告会社は、被告らの右不法行為により、別表記載の代金額一億六〇四五万八〇〇〇円相当の損害を蒙つたことは明らかである。

四過失相殺

前記二、三、1認定事実によると、当時原告会社の被用者であつた倉知が、別表記載の取引をなしたことは、それ自体同人に与えられた権限を越えるものであり、そのうえ同人がこの取引に応じた動機というのも、山路商店との取引において自己の原告会社に対する背任的行為によつて同社に生じた損害を填補しようとしたからに他ならず、しかも倉知は、右取引にあたり、被告小島の言を鵜呑みにし、とりたてて豊臣石油販売の信用、特に被告会社との間の債権債務関係について調査もせず、結局、倉知のこれらの落度が後日被告会社が支払を拒絶することの口実を与えたのである。

すなわち、原告会社に生じた損害の発生及び拡大につき、原告会社の被用者たる倉知にも過失があつたものというべきであり、この過失は原告会社に生じた損害額を算定するにあたり斟酌されねばならず、その過失割合は二割とするのが相当である。そうだとすると、被告らの右不法行為により原告に生じた損害額は、前示代金相当額一億六〇四五万八〇〇〇円の八割に相当する一億二八三六万六四〇〇円であるといわねばならない。

五結論〈省略〉

(裁判長裁判官川井重男 裁判官大内捷司 裁判官香山忠志)

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